2012.02.09 越後湯沢 ~川端康成の「雪国」~ (補足)
■ 「雪国」 という小説について(真面目版)
さすがに超・意訳だと誤解する人も居そうなので(笑)、あまりにも有名な冒頭部分くらいは正しく引用しておきたいw
以下は新潮文庫の最初の1ページ分である。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。 向側の座席から娘が立ってきて、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れ込んだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん。」
明かりをさげてゆっくり雪を踏んできた男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。
もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。
「駅長さん、私です、御機嫌よろしゅうございます。」
「ああ、葉子さんじゃないか。お帰りかい。また寒くなったよ。」
「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話さまですわ。」
「こんなところ、今に寂しくて参るだろうよ。若いのに可哀想だな。」
ここに描かれているのが、まさに今見ている風景であるらしい。 夜といっても時間帯はまだ夕焼けの残照が微かに残る頃合で、東京から湯沢までの所要時間を5時間20分とみると、主人公=島村は昼頃東京を発って雪国(というか土樽の信号所)に至ったことになる。
あとでマニアックな人が調べたところによると、この情景は川端康成が冬季に湯沢入りしたときの上越線のダイヤとぴったり重なるらしい。昭和9年の12月6日であったといい、例年であれば積雪があるかないかのギリギリの時期だったが、この年はたまたま雪が早く降って、川端康成が清水トンネルを越えたときは一面の雪景色となっていたようである。