2013.02.11 中部北陸:雪国紀行 ~白川郷編~ (その2)
■合掌集落に入ってみる
さて展望台から降りて、いよいよ集落内に入ってみよう。荻町の合掌集落は庄川の浸食によって出来た河岸段丘の上にある。地図上でみると大水が出た時に流されてしまうそうな立地に見えるかもしれないが、集落の乗っている段丘面は河床から10mほどもあって、過去数百年水害で流されたという話は聞かない。河原に毛の生えたような平地ではなく、しっかりとした土台の上に成立したという点で、この集落の立地は堅牢であったといえそうだ。
ちょうど集落の中央付近に有料駐車場が出来ており、なんとか滑り込んでクルマを停める。とりあえず観光案内所で集落マップを仕入れ、ゆるゆると歩いてみることにしよう。
展望台から見た合掌集落は大型の古民家ばかりのように見えたが、駐車場の付近に並んでいるのは比較的小さな建物で、いずれも土産物屋の店舗として使われている。どうやら母屋ではなく納屋として使われていた建物を移築して即席のショッピングモールにしたような雰囲気だ。
※余談になるが古民家における母屋と別棟(納屋等)を区別するもっとも簡単な見どころは、風呂場と台所(竈)の有無である。衣食住のすべてが建物内で完結するのが母屋(人の生活する主たる建物)、そうでないものは離れ(別棟)と判断しておおよそ間違いない。
案内板によると合掌造りの民家は78軒ほど。…といってもすべてがこの荻町集落のオリジナルではなく、消失した周辺集落からの移築分が結構あるらしい。
「移築したものは、なるべく展望台から窓が見える向きにしておりまして」
…というのでそれは何ですかと係員氏に聞いてみたところ、夕景で窓明かりが見えると風情があるので演出上の都合がごにょごにょ…ということらしい。それってユネスコ的に良いのか悪いのか?…と多少のツッコミどころはあるのだが(爆)、どんな観光地にも多少の大人の事情はあるのでここは爽やかに聞き流して忘れるのが(中略)と心得ようw
かつての集落は現在のような密集形ではなく、もっとゆるやかに分散していたらしい。古民家の保護が叫ばれるようになって以降は住民は家を建て替えたくても古い建物を壊すことができなくなり、空いたスペースに別棟を建てるようになった。おかげで次第に住宅密度が上がり、今の状態になっているという。
…このあたりは、なかなか難しいもんだなぁ(´・ω・`)
■結(ゆい)
さて売店の一角に、屋根の葺き替え作業の写真が飾ってあった。建物内に雨が入るのを避けるため作業は晴天の日に1日で完了させるそうなのだが、これが仲々凄まじく、もう村人総出といった感じなのである。材料の茅(かや)を集めてくる作業も含めて、建物の維持に猛烈なる労働集約が必要であったことが伺える一枚だ。
屋根の葺き替えは30年に一度くらいのペースで行われるという。…ということは、78軒もの古民家が集合しているこの集落では毎年2~3軒の葺き替え作業が恒常的に行われている勘定になる。それをうまく回していくには、村内の団結というか協調関係が良好でなければならない。
※最近はあまり良い意味では使われない 「ムラ社会」 という言葉があるけれども、集団への強烈な帰属意識というものがどのように育まれたのか、それを理解するのには百の屁理屈よりこの写真を一枚見た方がわかりやすい。
ちなみにこの繋がりを白川郷では 「結」 (ゆい)と呼んでいる。隣近所、家族、親戚といった地縁血縁の集積した、文字通りの人と人との繋がりである。最近では観光地化したことで山里の素朴さが失われて云々…ということも言われている白川郷だが、こういう点ではナカナカ侮り難い地域力をもっているといえそうだ。
さてそんな訳で、前振りはそのくらいにして付近を散策してみよう。
集落内はとにかく観光客が多い(^^;) 保存地区内では道路整備は1970年代で打ち止めとなっていて、車両規制のない歩行者天国といった雰囲気になっている。ちなみに幹線道路であるR156は現在ではトンネルを穿ってバイパスが造られており、白川郷に用のないクルマは合掌集落を通らずに抜けていけるようになってる。道路沿いに建てられているのは戦後の築と思われる住宅で、合掌造りの民家は一歩奥まったところに点在しているようだ。
その "一歩奥まったところ" に迷い込んでみると、こんな感じになっている。集落内は縦横無尽に水路が張り巡らされていて、道幅は1m少々といったところだ。水路は農業用水と除雪用途を兼ねたものらしい。
このうち水路は幾分近代改修の匂いがするけれども、道が狭いのは古い村落の特徴でもあり、全体的にはモータリゼーション以前の雰囲気を偲ぶことができる。
中小の納屋にも合掌造りのテイストはあり、基本デザインは共通である。いくらかトタン屋根で軒先が延ばされているものもあるが、これはこれで昭和レトロな感じがしており、まあ悪くない。
いろいろ歩き回ってみたところ、どうやら絵になる古民家というのは集落の外れの方にある山をバックにした立地にあるものがイイカンジだ。メインストリートであるR156から少し離れたほうが、周囲に余計なものがなくて (さらには観光客の人影も少なくて ^^;) 自然な感じがする。
ついでながら白川郷では、電線の地中化が行われていて視界を邪魔する電信柱がほとんどないのが秀逸であった。地中化は1998年頃から着手されていて、10年ほどかけて景観保存地区のほぼ全域から電信柱が撤去された。…この効果は素晴らしく、伝統建築にしても遠景の山並みにしても、視界が邪魔されないので実に清々しく、広々と見えるのである。こういうところは筆者の地元である那須や塩原も見習ってほしいと思う(^^;)
<つづく>