2016.02.16 常陸~房総周遊記:野島崎編(その3)
■ 千倉の花畑
さて海の幸を堪能した後は、通り一本隔てて花畑を見てみよう。道の駅はちょうど花畑エリアと漁港をつなぐ絶妙なところにあって、観光ドライブのランドマークとしてはちょうど良い。
ここには花卉農家の販売所がズラーリと並び、奥側(山側)に花畑が連なっている。この付近の農業生産は花卉栽培が断トツで、次いで果樹、漁業、そして申し訳程度にコメが続く。花卉農家には民宿を兼ねているところもあり、まあ総じてよろしく観光が振興されているようだ。
花畑はこんな感じで広がっている。少量多品種生産で、畑の畝(うね)ごとに品種が分けられているようだ。風で倒れないように支柱やビニールシートの覆いがあって、植物園的なつくりではなくあくまでも生産現場としての花畑になっている。昨日の鴨川で見た菜の花畑が一面同じ種類の花で埋め尽くされていたのと比べると、かなり対照的な風景だ。
それにしても、やはり2月の関東地方でこの満開具合はかなり反則技のような気がする(^^;)
花畑には、ところどころに掘立小屋が建っている。これは農家毎の詰所(というか事務所というか)で、摘んだ花をその場で清算して買い取る仕組みになっている。ここは特定の大規模農家がドーンと土地を占有しているのではなく、短冊形に細かく区切って多数の農家が入居しているようだ。
花の品質は、さすがはプロフェッショナルといったところか。素人が庭先に植えているのとは違って、肉厚で艶があり、美しい。筆者などは一介の旅人なので 「いやー綺麗だねぇ」 と気楽に見ているけれども、これだけの多品種を開花時期を合わせて一斉に栽培するのは結構な技術だろうと思う。
※写真をみて分かるとおり、ここには大型のビニールハウスはない。露地栽培+畝(うね)単位の小規模なカバー程度でこれを実現しているのはちょっとスゴイ気がする。
さて花畑を散策していると、海岸で見た波食棚の痕跡があった。隆起したかつての海岸地形である。これを見ると付近の表土はやはり極めて薄いようで、水田がつくられずに花卉栽培に特化していった理由の一端が伺える。
先にも少々触れたけれども、南房総は元禄地震(1703)でドカンと3~5mほども土地が隆起していきなり海岸の面積が増えた歴史をもっている。いま筆者の立っているところは元禄以前には海底だったところだ。地震で波打ち際は一気に200~300mも沖合に後退し、塩分だらけの岩盤が露出した。
この使いようのない土地に、海藻や落ち葉を敷いて腐らせて最初の土がつくられ、そこで栽培されたのが塩分に耐性のつよい水仙であったという。武家屋敷の集中する江戸では冬季の花に需要があり、舟運で1日という距離感もあっていい商売になったらしい。
それ以来300年…今では土壌も改良されて、園芸品種が多く栽培されている。花卉類は国産品が消費量の90%を占める農産物の優等生で、国内シェアは1位が愛知県、2位が千葉県となっている。温暖な気候はあっても土壌的には決して恵まれているとはいえない南房総は、そんな中でも相当に頑張っている部類ではないだろうか。
■ 菜の花
さて花畑を縫うように歩いているうちに、一番奥まったところでようやく菜の花をみつけた。鴨川では空模様がぱっとしなかったけれども、ここの菜の花は青空との対比がまぶしい。菜の花は園芸品種の金魚草などに比べたらほとんど値段がないようなものだそうだが、筆者はこの素朴な感じが結構気に入っている。
そんな青空に映える黄色をGET。これで今回の旅程の大目的は果たした気がする。
さてゆるゆると光の中での散策を楽しんでいたら、もう昼時がちかい。そろそろリターンフェーズも意識しながら平砂浦方面にむけて流してみることにしようか。
■ 野島崎~平砂浦を行く
千倉を出てからは、フラワーラインに沿って野島崎~平砂浦方面を流してみた。帰路は内房から首都高を抜けて東北道に向かうつもりでいるので、大雑把に館山方面に向かいながら景色を眺めていくことにしよう。
野島崎から西側に入ると、海岸は砂浜基調になってくる。飛び砂の多いエリアである。砂を避けるように海岸沿いには民家はなく、少し奥まった高台に家が建っている。砂に埋まらないように…との配慮でそうなっているのである。
東日本大震災のとき、この付近には1~2mくらいの津波がやってきたそうだが、幸いに浸水した家屋はなかった。おかげで羹(あつもの)に懲(こ)りて万里の長城…という九十九里浜のような状況にはなく、風景は震災前とあまり変わらない。海浜ドライブ派にとっては視界を遮る壁がないのでありがたい。
伊豆大島はまだはっきりと見えている。それだけ空気の状態が良いのだろう。雪は…朝に比べると融けてきているみたいだ。…まあ、南国だからなぁ(笑)
道路沿いは、もう、砂、砂、砂。それも平坦な砂地ではなく起伏のある砂丘が広がっている。風で動き回る砂の山の連続体だ。
考えようによってはこれが天然の防波堤を兼ねていると言えなくもない。いつかやってくる相模トラフ地震で、これが沿岸を守る盾となるのか…はてさて、どうなのだろう。
さて帰路を考えると、立ち寄れるのはあと一か所か二か所だが…どうしよう。
…と思って白浜フラワーパークに寄ってみたのだが、ポピーは綺麗に咲いていたもののちょっとインパクトが足りない。
そうなるとやはり、あそこになるのかな。もはや南房総を通り越してしまいそうな気もするが。
<つづく>