2020.05.15 コロナウイルス顛末記:後編 (その2)




■4月1日




4月に入って、もういい加減、緊急事態宣言が出ないとまずいだろうという雰囲気になってきた。しかし政府は 「まだぎりぎり持ちこたえている」 としてグダグダと小田原評定をしているようにみえる。国内の感染者は2178名、死亡者は57名となった。




■4月3日




国内感染者 2617名、死亡者 63名。

世界の感染者総数がついに100万人を突破した。 ニューギニアやボツワナなど 「どうやったらそんなところにまで拡大するんだよ」 と言いたくなるようなところにまでウイルスは蔓延している。 死亡者は5万名を超え、単純計算で全世界の致死率は5.1%。ただし地域差が激しく、医療崩壊したイタリアでは12%を超えており、日本は2.4%、ドイツ 1.3%、オーストラリアは 0.4% といった具合だ。




国内では東京都の感染者が急増し累計 690名となった。大阪の312名、愛知県の186名がこれに続いている。ここで日本医師会が緊急会見を開き、危機感を表明した。




しかしまだ政府は緊急事態宣言を出さないのである。

後日聞いた話によれば、ここでも野党側は宣言の実行段階でゴネて政府の足を引っ張ることを画策していたらしく、それをさせないように 「お願ぇしますだ、どうか宣言出してくだせぇ!」 という声が極限化するまで待ったのだと言われていた。信憑性のほどはわからないがいかにもありそうな話のような気がする。

ただ日本の法律(特に危機管理に関わるもの)の成立とその適用というのは、結構こんなパターンが多いのだ。今回成立した法律も効力は2年で切れ、その先はまた無保険ノーガードの状況に戻ってしまう。国民はこの現実をしっかり記憶しておかねばなるまい。




■4月7日 緊急事態宣言




さんざん判断を引き延ばした挙句、ようやくこの日に至って緊急事態宣言が出された。
対象地域は 東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県 の7都府県で、期間は4月7日~5月6日の1ヶ月とされた。 医療界からは 「1週間遅い」 との声が聞かれた。

全国一律ではなく対象都道府県が絞られたのは、まあ独裁者批判を繰り返してた野党に引っ張られた結果なのだろう。もう少し包括的、網羅樹的なものになるだろうと思っていた筆者からみてもなんともショボい緊急事態で、しかも強制力がほとんど無いゆるゆるの措置であった。




しかしここが日本人の凄いところで、いったん方針が固まって号令がかかると一斉に従うのである。なんという被統治能力!




おかげで臨時休業+在宅勤務が一斉に広がり、観光産業は冬眠状態となった。スーパーの営業は時短のうえで継続、入店時はマスク必須となった。観光地は県境を越えての来客は敬遠となり、筆者の居住する那須地域では県外客の入店拒否という店が増えた。なんともはや。




■4月9日




さて緊急事態宣言は出たものの、東京都の感染爆発は止まらない。

国内の感染者数は 4768名、死亡者 85名。 都道府県別では東京都が1347名と断トツのトップになっている。 潜伏期間を2週間と仮定すると、現在の感染爆発の起点はやはり3月の3連休(3/20~3/22)あたりになりそうだ。 ただし臨床データによると潜伏期間の平均は約4日と見積もられていて、もうすこし短いスパンで再生産が進んでいるような印象もある。

TVには日本医師会のエライ先生が繰り返し出演しては悲観的な意見を述べている。政治家や役人の好む 「様子を見ながら対策を小出しにする」 という方法論は愚策であり、必要ことは先読みして一斉にやれというのが主旨のようだ。筆者は全面的に賛成したい。…というか、それって当たり前のことじゃないの?




海外からの反応もちらほらと入ってきた。日本の緊急事態宣言は酷評もいいところで、何もいいところがない。ざっと論調を眺めてみると、①時期が遅い、②強制力が伴わない、の二点が主に問題だと思われているようだ。

ニュースではさかんに「3密」なる造語が繰り返されている。曰はく、密閉、密集、密接を避けましょうという呼びかけだ。 仏教用語の三密と紛らわしいことこの上ないのだが、さすがにそっち方面のツッコミはほとんど聞かない。

さて筆者の地元の那須塩原市でもついに感染の第一号が出てしまった。 埼玉県からコロナ疎開してきた方だそうで、田舎では光の速度で口コミが広がるためいろいろと噂は飛び交っているけれども、個人情報に関することはここでは伏せておきたい。発症しても体力のある若い人だと見た目はただの風邪で済まされてしまうのがこのウイルスだ。市中感染者は他にもいるものと思った方がよさそうな気がする。




■4月20日




世界の感染者数は240万人を超え、死者数は16万人となった。 10万人を超える死者といえば1991年の湾岸戦争の死者数(軍人/軍属)が総計2万人、民間人死亡者がおよそ10万人だ。 今回のコロナ騒動は、砲弾こそ飛び交っていないもののすでに湾岸戦争を超える犠牲者を生み出している。 しかも現存するほぼすべての国/地域を巻き込んでいるのだからエグイ話である。




国際政治の舞台では早くも 「戦後」 を見据えた情報戦が始まっているらしい。 生物兵器説漏洩説などがかなり真面目に議論されている一方で、ツッコミどころ満載の荒唐無稽な珍説も流布されている。 どのような形でこの感染爆発のオチがつくにせよ、戦犯とされた国(=容疑者は中華人民共和国以外に居ない訳だが)には天文学的な桁数の賠償請求が行くような気がする。



 

■4月25日




GW連休を目前にしたこの日、筆者の居住する那須塩原市でも非常事態が宣言された。市内で見つかった感染者はいずれも感染源がよくわかっておらず、また緊急事態宣言を受けて首都圏からの "コロナ疎開" が急増しているので 「ウィルスを持ち込まれてはかなわん」 という市当局の心の叫びが反映しているのかもしれない。といっても市のリソースは限られており、せいぜい休業要請に応じた宿泊業者に一時金を拠出するくらいのようだ。




実はこの "コロナ疎開"、4月の上旬から始まっており首都圏から近くて交通の便もよい軽井沢と那須で目立っていた。疎開してきたのは別荘を持っている富裕層と、実家や親戚がいる人々である。4/9付の日経によれば昨年比1割増とあるが、筆者がちょっと山沿いを流してみたくらいでもキャンピングカーがずいぶん増えているように見えるので、実態は1割どころじゃないような気がする。

……と言っても、観光地としては地元にお金を落としてくれる人々に 「来るな」 とも言いにくい。このあたりはなんともアレで、筆者的には 「騒ぎは起こすな」 「うまいことひっそりと隠棲していてくれよ」 と言う他はない。




■4月28日




世界の感染者数が300万人を突破。100万人を突破したのが4月3日だったから、わずか3週間ほどで3倍に増えた勘定になる。客観的に見て 「様子を見ましょう」 なんて状況ではなく、特措法で2週間もゴネていた日本の国会議員はどれほど貴重な時間を無駄にしたのか責任を感じてほしいものだ。

さてその間、中国政府が初動で情報隠蔽した背景事情?のようなものがこのところネットで盛んに流れるようになった。 中国当局がヒト-ヒト感染に気付いた時期は早く、それを隠していたのは医療資源を自国だけで買い占めるための時間稼ぎだったというものだ。 真贋のほどはわからないけれども、各国の中国大使館がマスクや消毒液、人工呼吸器などをかき集めていたという話はあちこちから聞こえてくる。もし本当だとしたら、日本で見られた中国人によるマスク爆買いもその一端だったのだろうか。

外交分野では米国と中国の非難合戦が続いている。基本的に米国は 「経緯を説明しろ、責任を認めろ」 という話をしており、中国は 「我々に責任はない、ウイルスは外から持ち込まれた」 ということを言っている。双方とも言いっぱなしでスピーカーの音量合戦に始終しているように見える。

陰謀論めいた話としては、中国共産党が自国民をモルモットにして生物兵器の実証実験を行って、そのままNATO諸国にばらまいて世界征服を……などという話も出てきているようだが、さすがにそれは盛りすぎな気がする。いくら共産党がアレな組織でも、もう少し頭の良さそうな世界征服計画を立ててくれないと悪役として失格だ(何)




■ 5月2日




「ウイルス感染を抑制するため」 との掛け声のもと、史上最低とも言われる盛り上がらないゴールデンウィークが始まっている。

栃木県の観光地と言えば那須、塩原、日光などが有名だが、主要な観光施設はのきなみ休業しており、これらの店舗でパートやアルバイトで働いていた人はシフトを極端に減らされて日干しのような状態になっている。

当初地域を絞って始まった緊急事態宣言は、さすがに全国の知事から 「内容が貧相すぎる、真面目にやれ」 と声があがり、全国区に拡大された。いまや一億総自粛中である。工場は稼働率低下、商店は休業、鉄道やバスは閑古鳥……と散々な状況になった。




こういう人たちの所得補償をどうするのか……という話が政府内でにわかに火がつき、給付金が配布されることになった。 欧米では緊急事の対策が法律で決まっており、外出禁止令が出るとほぼ自動で所得補償が行われることが多い。 社会的混乱や戦争などを経験して、普通の国家にはこういう仕組みが備わっている。

しかし日本では緊急事態法制そのものがことごとく潰されてきた歴史があり、いざという時に国民を一斉に救済する仕組みがない。本来なら全国の学校に休校要請を出した2月末の時点=外出の自粛が呼びかけられて経済活動が急激に縮小したタイミングで所得補償を行うべきだったと思うのだが、このときは桜+モリカケで国会は空転し、官僚も動いた気配がない。

給付金の話が進んだのは実質的に緊急事態宣言以降で、国民からの非難の矛先が財務官僚の怠慢に向かい始めてからのことのように思う。何もしないよりはマシだけれども、このスピード感の無さ(※)はいろいろと反省が必要なのではないだろうか。

※ちなみにネットの一部では皮肉をこめて 「ご香典」 と呼ぶ向きもあった。倒産、破産、解雇、廃業、自殺などに至ってから給付金が来ても遅すぎるという意図による。




■5月14日




緊急事態宣言から1ヶ月少々が経過して、国内の感染拡大が収まってきた。緊急事態宣言は大規模な社会実験でもあった訳だが、人の移動や接触を抑制すると感染症が収まるという分かりやすいデータが取れたように思う。




これに関して安倍総理大臣の会見があり、東京都など感染者の多い都府県を除く39県の緊急事態の解除が発表された。 県境を跨いだ移動は避けてほしいほの但し書きがついてはいるけれども、まあ一区切りではありそうだ。

一方で、国外に目を転じるとロシアの感染者拡大が急速に進んで連日1万人以上のペースで拡大している。 中国から始まった感染の波は、いつのまにか米国とロシアがツートップになっている。 経済停滞があまりにも酷すぎて 「出口戦略をどうするの」 との声が高まっている一方で、世界レベルでみれば感染の収束はいまだに見えてこない。




国内の感染者数(というか陽性確認者数というべきか)は1万5908名、死亡者は687名。 海外の感染者数は429万9697名、死亡者数は36万1292名になった。感染者数のトップは米国の138万9935名、2位ロシア 24万932名、3位英国 22万1932名、4位スペイン22万8691名、5位イタリア 22万2104名と続く。

このコロナウィルスの流行は、どこかの国でピークを越えて収束が見えたように思えても、また別の国で感染爆発が起こる……という繰り返しで、一向に埒が明かない。こんな状況だと、海運、航空とも渡航制限や入国制限は当面継続するしかなさそうだ。 旅行業界は壊滅的なことになりそうだな。




■5/15




GW明け以降、都内で怪しげなマスクが出回り始めているらしい。 何が怪しいかというと、

①聞いたこともないようなメーカー名
②従来の流通網に載らない異業種店舗や露天商が販売


というあたりになんとも言えない微妙さが漂っている。 異業種店舗とは書店、美容室、家電店、喫茶店、寿司屋(!!)、タピオカ屋(!!!)などで、ふだん医療用品や衛生用品を売っているところではない。 これらのマスクはみな Made in China の刻印がある。今まで中国政府はマスクの輸出を止めていた筈なのに、どういう訳か急に輸出に熱心になりはじめたらしい。




これらの怪しげ(失礼 ^^;)なマスクは従来型のドラッグストア(薬局)には並ばない。 薬事法に準拠して運営されているドラッグストアは品質管理に厳格で、実績のない新興メーカーの製品は扱いたがらないからだ。 マスクそのものは "医薬品" ではなく "雑品" 扱いなのでコンビニでも販売できるくらいなのだが、このご時世にマスクで品質問題を起こすリスクを避けて、ドラッグストア業界は保守的に動いている。 筆者はそれでいいと思う。

筆者の近所では、まず某ヤ〇ダ電機の店頭にこのマスクが並んだ。 一箱50枚入りで\2980也。春節の買い占め騒動以前は\500未満であったから、まあざっと6倍くらいの価格になる。 それでも最悪時の1/3~1/5には下がってきたのだから、まあ事態は落ち着いてきたのだろう。そこから順次、ホームセンターや一般のスーパーにまで流通が広がってきた。




ちなみに筆者は勤務先のクリーンルームでこれらのマスクが使い物になりそうかをJIS B9923-1997 準拠の装置で測定してみたのだが、銘柄によってマスク本体から飛び散る微粒子の飛散量が10倍ほども差があって、品質は……まあゴニョゴニョ(笑)であった。

ときどき黒いポチポチが見つかるので顕微鏡で拡大すると機械油の飛沫(ぉぃ!!)だったりして、生産現場の衛生環境もピンキリであるらしい。ただし中には材料の仕入れ先が優秀なのか医療用マスクに匹敵する成績を示すものもあり、状況は玉石混淆、当たりを引いた方はおめでとうという状況にある。

そんな訳で、まだまだウイルス騒動は続いていく。きりがないのでひとまずここで一区切りとしておきたい。


【完】