2006.05.14 塩原(その2)
■塩原渓谷
渓谷に入ると新緑とツツジの世界が広がっている。ここでさきほどのハニー牧場からの標高差は+160mくらいになるが、この程度の差ではツツジの開花状況に大きな違いはない。
ツツジの季節は結構長い。ヤシオツツジ~ヤマツツジ~レンゲツツジとリレーしながら2ヶ月ほども続いていく。桜のように見頃が一週間くらいしかないと花見を狙うのも大変になってしまうが、ツツジは一週間やそこらズレてもたいして影響はない。そういう意味では被写体として追いやすい花だ。
カエデの新緑もいい感じになっていた。本当の葉の出始めは赤や黄色を呈しているのだが、葉が広がったあたりで緑色が冴えてくる。
こんないい季節なのに、連休が明けると観光客はガクンと減ってしまう。 地元民にとっては非常に好都合で、まさにこの時期はローカルな観光シーズンといえるだろう。
やがて福渡付近に到達。ここも新緑がなかなか綺麗になっている。実は関東平野以南の自然林ではこういう風景はみつけにくい。それは照葉樹つまり冬でも葉の落ちない木が多くなるからだ。
ちなみに照葉樹はこういう(↑)外観をしている。葉は厚みがあって硬く、表面がツヤツヤしているのが特徴だ。1年中少しずつ葉が更新していくのでいつ見ても緑がそこそこ濃い。こういう樹種は春になっても特段色味が変わったりしない。
しかし落葉広葉樹は冬になると葉を落としてスッカラカンになってしまう。
新緑が映えるのは、そうやってモノトーンになったところに一斉に芽吹きがやってくるからだ。大雑把にいって年間平均気温が15℃未満、関東では水戸~宇都宮~佐野~太田あたりから北がこの落葉広葉樹の森になっていて、春には萌黄色に染まる。
■トンネルの向こう側、上三依
さて温泉街はスルーして、尾頭トンネルを抜けていく。 写真をみるともの凄いスピードで疾走しているようにみえるけれども、単なるスローシャッターの流し撮りなのでご安心願いたい(笑)
そして……おお、トンネルを抜けるとそこはまだ早春ではないか。
芽吹きの色も 「超萌え」 で、山肌には桜が咲いている。
見れば山の上のほうはまだ木々の芽が出ていない。やはり山のこちら側では1ヶ月ほど季節の巡りは遅いようだ。
そして目標にしていた会津鬼怒川線の上三依塩原駅に到着。 ピークはやや過ぎているようだが桜はまだ咲いていた。
開花の時期はいつだったか駅員氏に聞いてみると 「ここの桜は遅いんですよ」 と笑いながら、日記帳を広げて見せてくれた。
一人で駅舎に詰めている駅員氏はコツコツと日記をつけていて、ちゃんと開花日や満開の時期を記録に残していた。それによると、例年の平均開花日は4/29頃で、今年はそれより4~5日遅く、開花は5/2、満開が5/5だったという。
業務命令が出ている訳でもないのにこういう記録があるところに、駅員氏の風雅の心が垣間見える。
電車に乗る訳でもないのに相手をしてくれた駅員氏に感謝して、せめて駅舎の自販機で缶コーヒー購入。 それを味わいながら、駅前のささやかなロータリーで静かな時間を過ごしてみた。
遠くに鳥の声がかすかに聞こえるのみの、何もない景色。 しかしそれこそが、最高の贅沢のように思われた。
ついでに、駅前の橋からみえる男鹿川を眺めてみた。
首都圏で "駅前" といえば商店街と飲み屋とパチンコ店がセットになっているような感があるけれども、ここにはそんなものは無い。あるのは、桜の木と、渓流と、数件の民家のみ。周囲はすべからく、山と森である。
……こういうところで、1時間に1本のダイヤを正確に捌(さば)きながら、しかし単調な繰り返しの中で日々が過ぎていく。自然の移ろいを残した日記がそんな環境で書き綴られているというのは、なんとも詩的な光景であるような気がした。
■帰還
山を降りてくると、日没の頃になってようやく雲が晴れた。
もうあと6時間ほど早く晴れてくれれば色々な景色が鮮やかに撮れたはずなのだが…まあ、贅沢は言うまい。
さてこれで本日までの2006年那須ローカルな桜前線の記録は、こんな感じになった。 あとは茶臼方面(正確には南月山)のミネザクラを確認できれば完成だな。うむ。
<完>