2008.01.27 鶏頂開拓 (その3)
展望の丘から宿場の集落まで先ほどの道を降りてくると、吹きさらしではない穏やかな雪景色となった。高さにしてほんの30~40mの差でしかないが、それがここに奇跡的ともいえる平穏な空間を作り出している。
旧集落には、石塔の類が多く残っている。これは庚申塔。彫られている梵字は「ウン」だろうか。庚申塔といえば青面金剛が定番の祭神になる筈だが、調べてもこの字に当てはめられるのは降三世明王くらいしか出てこない。これはどう解釈すべきなのかね。
旧集落から北に向かうと、西国供養塔がみえてくる。江戸期に流行した霊場巡礼(西国33箇所、坂東33箇所、秩父34箇所が有名)の記念塔である。旧高原宿付近の石塔/石仏の分布具合はこのあたりが北限のようで、筆者的にはこのあたりまでが宿場のテリトリーだったのではないかと思っている。
開拓地の風景
そこから先は戦後拓かれた開拓農地になる。水源に乏しい寒冷な丘陵地のため、水田はなく全域が畑作(高原野菜の栽培)地となっている。冬季はもちろん積雪があるので一面の銀世界である。
そのまま北進すると、1kmほどで農地は途切れる。その先に開けているのがこの地区唯一のゴルフ場、きぬがわ高原CCである。今はもちろんゴルフはオフシーズンだが、クロスカントリーやスノーモービルのフィールドとして営業している。カナディアン風のコテージもあり、実はスキー場に一番近い宿泊施設でもある。
そして冬写真を撮るフィールドとしても、実は結構いい穴場だったりするのだ。
なにしろ視界がいい。そもそもは畑にするため傾斜の急な斜面を切り開いたところで、周囲はみな下り坂なので360度の眺望が得られる。
ここの積雪量は50~60cmくらい。ゴルフコースを区切るの細い樹林帯が残っているので、旧宿場西の尾根筋のように土が露出するほど風で雪が飛ばされることは無いようだ。 もちろん雪質は超サラサラの粉雪である。
モービルやクロスカントリーで使われても、少々風が吹けば雪が舞い上がり轍は埋まってしまう。これは写真的にはとても重要なことで、常に新雪感があるのでカメラ写りがとてもいい。
これで天候条件がうまくハマって真っ白な樹氷の森が広がってくれたら最高なんだけど、残念ながら早朝ではないので枝先の樹氷は解けてしまったようだ。
そのままちょっと奥に踏み込んでみた。周囲はカラマツの原生林が広がる。クラブハウスからちょっと離れるだけで人の気配のない静かな雪の森の風景になる。こういうところを散策するのは清々しい。
丘陵部を見上げるアングルで空と雪だけのシンプルな絵を撮ってみた。特徴がないといえばそれまでの構図なのだけれど、こういう余計なもののない画面は割と筆者の好みだ。
これも似たような構図。光線の具合もよくてPLもうまく効いてくれた。露出はややアンダー目。白い部分が飛んでしまうと雪景色としては 「のっぺり」 しすぎてしまうので多少加減している。
レストハウスでコーヒー休憩しながら散策するには、この辺りは非常に具合がよろしい。クロスカントリーで行くもよし、スノーモービルで駆けるもよし、もちろん徒歩でヌルい庭先散歩をしてもいい。疲れたら温泉施設もある。あまり安上がりに過ごすと申し訳ないような気分にもなるけれど、まあそのへんはお財布と相談しながら適度にお布施をすることにする。…とりあえずは、軽食を取って温泉でも頂こう。
■ 開拓地を後にする
さてなんとなくゆっくりしすぎた(笑)
いつのまにか午後になって、西日が傾いてきている。そろそろリターンの頃合いかと思いつつ、雪斜面に伸びる影がいい感じなので撮ってみる。向こうに見えるのは南会津に連なる山並みである。暇があればあの向こう側もきわめてみたいところだが・・・なかなか機会がないんだよな。
見れば雪煙が舞っている。煙立つ雪景色は一日中氷点下の続く場所でないと見られない。これはこれで貴重なものだと思う。
こんな景観が、首都圏で見られるのだから素晴らしい。下手なハコモノなんかいらない。このままで充分に観光が成立しているじゃないか。
スキー場の人工的につくられたゲレンデも悪くはないけど、風のつくりだすこんな雪景も良いものだ…と思いつつ、ここで帰投フェーズに入った。
春はまだ遠く、大地は見渡す限り白い。ここを埋め尽くしているのは、只見や越後湯沢風の重たい雪ではなく北の大地風のサラサラ雪であり、風が吹けば舞い上がり幾筋もの風紋を刻む。下手な詩人でもなにか詩を作りたくなるような、そんな不思議で面白い里だと思ってみた。
【完】
■おまけ
早めに引き上げたのは、実は塩原温泉で一服しようと思ったためだった。ここはホテルニュー塩原の貸切露天風呂なのだけれど・・・水車も含めて全部凍りついてしまっていてアウト。
仕方がないので、向かい側の温泉でゆったりと野趣を味わってみた。対岸の七弦の滝と周囲の岩盤はすっかり凍り付いてなかなかの趣となっている。
山の上と異なり、谷底の温泉街には積雪はほとんど無い。しかし氷の壁と氷柱(つらら)の織り成す情景は、やはり一見の価値はある。そしてこれを見るには、河原に下りても勿論良いのだが、展望温泉のある位置が実に心憎い絶妙な場所なのである(笑)
…まあ、資本主義の世の中なのでここは素直に料金を支払って真正面から眺めるのが正しいような気がする。
<おしまい>