2010.04.25 会津西街道の春を眺める:後編(その4)
■ 上三依
五十里湖から上流域は、春とはまだ縁遠い冬の様相だった。少なくとも東京など南関東で感じるGWの雰囲気とはかなり異なる。…なにしろこの付近は栃木県内でも最も春の訪れの遅い地域の一つなのである。鳥の囀(さえず)りさえ聞こえない早春の木々の中を、愛車エクストレイルで北上していく。
さて本日はとりあえず上三依まで溯ってから塩原を抜けて下界に戻る予定でいる。何故上三依などというマイナースポットを目指すのかといえば、そこが道の分岐点だからだ。山間部というのは平地と違ってどこでも道を選べるわけではない。会津西街道を北上する場合、上三依で曲がり損ねると福島県側に大きく迂回しないと戻ってこれなくなってしまう。
そんな訳で、いよいよ今回のコースにおける最奥地の状況を見てみるとしよう。
上三依は会津側に抜けていくR121(会津西街道)と、塩原側に抜けるR400との分岐点にあたる小集落である。現在は尾頭トンネルで塩原側へのルートが抜けているが、昔はもちろん峠(1223m)を徒歩で越えていた。さきに述べた第一次五十里湖の存在した時代はここから塩原側の小滝宿に抜けるルートが迂回路として使われ、その意味では小集落といえど街道の分基点であり交通の要衝であった。
そんな集落脇に水生植物園がある。
入場してみると、やはりまだ木々は芽吹きの前で、今回のコースで季節の進み具合をみる指標として追ってきた桜も、まだ硬いつぼみのままであった。
桜より若干先行して咲くコブシの花も、ようやくほころび始め…といったところか。
そんな中でほぼ唯一、水芭蕉だけが白い花を咲かせていた。
この付近では鬼怒川本流上流域の土呂部、塩原町の大沼などで自然の群生を見ることができるが、幹線道路沿いでお手軽に水芭蕉を見るならここに来るのがよい。昔は野門付近でも大規模な群生地があったのだが、こちらは増えすぎた鹿による食害でかなりやられてしまったらしい。
例年ならGWの頃にちょうど見頃になるのは川俣方面の土呂部や野門で、上三依はそれより2週間ばかり早く見頃を迎えるはずなのだが、今年はご覧のとおりである。ぽつりぽつりと見える観光客も、ほぼこの水芭蕉を見に来ているようだった。
それにしても、当初は 「咲きかけの桜」 でゴールとなる腹積もりで走ってきたのだけれど、まさか水芭蕉とはね。
季節の移ろいというのは、なかなか人間の思惑の通りには動いてくれないものだな。
植物園は水芭蕉以外これといって見頃の花もなさそうなので早々に退出し、この時期の定点ポイント=上三依駅の枝垂桜をチェックしてみた。…こちらも、まだまだ咲く気配はない。
そのような次第で、とりあえず本日のコースの最奥地まで来たぞ…と、駅前のなーんにもない土地を見ながら缶コーヒーブレイクでゆったりしてみた。
奥の樹木の根元に巻いてある藁束は、簡易的な雪囲いの一種だ。この付近は冬季には1mほどの積雪があり、鉄道の沿線ではおそらく栃木県内で最も雪深い土地だろう。気候的にはもう日本海側に近く、山一つ越えた塩原側とは対照的な様相を見せる。
R121に沿って会津若松まで抜けてしまうとまた雰囲気も変わってくるのだけれど、この付近のほどほどの僻地感と 「何も無さ具合」 を筆者はナニゲに気に入っている。
凡景…といえば、そのとおり。しかしいわゆる観光地スポットを巡ってきたのちにここにたどり着くと、その宣伝臭の無さ具合がかえって清々しく感じられる。 そしてそんな "自己主張をしない凡景" を、筆者は美しいと思うのである 。
さてそんなわけで、今回の目標は一通り達成した、と判定しよう♪
■ 塩原を抜けて帰路へ…
さていい加減筆疲れもしてきたので復路については簡単に触れるに留めたい。尾頭トンネルを抜けて塩原側に抜けると最初に出会う集落は小滝である。ここには温泉神社があるのだが、やはり太平洋気候のほうに抜けてくると桜も幾分ほころんでくる。
境内の桜はもうあと1日、2日程度あればかなり見頃になるのではないかという開花状況だった。
小滝から4kmほど下り塩原の温泉街まで降りてくると、桜は7分咲き程度となった。
鬼怒川を溯るより尾頭峠を挟んで往来するほうが季節感の移り変わりは劇的に実感できる。やはり "山越え" というのが大きいのだろうな。
さらに下って那須野ヶ原に抜け、千本松牧場で本日最後の写真を撮った。幾分葉桜になってきてはいるもののまだ鑑賞には耐えられる。
これがツツジにバトンタッチしていくと、いよいよ那須地域も本格的な新緑になってくる。残念ながら今年はその時期がGWとはズレてしまいそうだが、まあ自然の移ろいに人間の都合で文句を言っても仕方がない。
そんな訳であまりオチらしいオチもなかったけれど、今回のレポートはここまでにしたい。
<完>
■ あとがき
どうも文才が無いもので結局は見たものの羅列になってしまっている本稿ですが、まあ季節感の変化を1日で追えるコースの面白みが伝わればよかったかな…などということで、簡単なあとがきです。
今回走り抜けた会津西街道を中心とした60kmほどの区間は、ほぼ一本道の空間に数珠玉のように観光スポットの点在するエリアで、それぞれがまる一日を過ごして余りあるくらいの見所をもっています。本来なら1日でえいや、と駆け抜けるには惜しいのですが、思い切り端折りながらの凝縮レポートとしてみました。
さて街道の北上とともに季節の移ろいを逆行していく様子が特に桜の開花状況でよく見えたと思いますが、その変化が非常に良く見える素材(衛星写真)がWikipediaのフリー素材にありましたので拝借してみました。
これは1999年4月30日に撮影された日本列島です。今回の記事と季節的にはほぼ同じ頃の映像ですが、九州から南東北の福島県辺りまで木々の芽吹きが進んでいる様子が捉えられています。よく見ると日本アルプスや日光~那須の山岳部はまだ枯れ草色で、山岳部の春が遅い様子がよくわかります。
今回のレポートの出発点である今市、最奥点の上三依、そして最終点の千本松牧場を写真に重ねると↑このような位置関係になります。ちょうど4月末頃は新緑のベルトが山を登りつつある端境期になっており、GWの連休とこの緑のベルトの先端部分がうまく重なると、春の観光旅行としては理想的な新緑具合が楽しめる…ということになるのでしょうね。
新緑ばかりではなく10月前後の紅葉前線の状況なども宇宙から見てみたいところですが、どうもそう都合のよい画像は簡単には見つかりませんでした。 そのうち気象庁が頑張ってくれることに期待しましょう。
<完>