2011.02.10 越後湯沢 (その2)
■越後湯沢
さてまもなく湯沢ICを降りて市街地に入った。
越後湯沢の温泉地としての歴史は900年ほど前、平安時代末期の頃まで遡る。言い伝えでは高橋半六なる者が山中に自然湧出している源泉を発見し、その流れ下る川筋を "湯之沢" と名づけたところから始まるという。
湯之沢 は越後湯沢駅の北西側の少々奥まったところに位置している。本来の湯沢温泉の中心はその付近にあったらしいのだが、昭和6年に上越線の越後湯沢駅が開通してからは駅の近傍に新市街地が形成され、温泉街の重心も南側に1.5kmばかり移動した感がある。これは鉄道開業のときにボーリング調査が行われ新源泉が確保されたためで、現在では伝統的な湯元地区よりも新源泉に依存する越後湯沢駅周辺の温泉街の方がボリューム的に大きな存在になっている。
温泉街に入ると、除雪も行き届いておりTVで騒いでいるほどの豪雪ではないようだった。
今年は福井の平野部で1mほどの積雪があり、R8などが交通止めになって孤立する集落が相次ぎ話題になった。あまりにもTVで大袈裟に報道しているので湯沢でも相当な雪ではないかと思っていたのだが、新潟方面の雪の降り方はどうやら平年どおりらしい。
さてそれはともかく、もう夕刻なので素直に宿に入ることにした。何しろ温泉に浸かってほぼそのままリターンという超ピンポイントな日程なのである(^^;)。寄り道は最小限にしなければならない。
今回は展望ロケーション+温泉優先ということで双葉という旅館に宿をとった。安物のビジネスホテルではなく、それなりのグレードの温泉宿である。
部屋に入ると早速のお食事タイム。筆者の旅行は毎度毎度安いビジネスホテルばかりなので、たまに戴くちゃんとした板さんの料理はとても貴重なのであった♪
■温泉
さてこの宿をとったのは当然の事ながら温泉三昧のためである。この宿には28もの湯船があって温泉フリークにはそれなりの人気があるらしい。腹ごしらえをしたら早速入ってみよう。
えらく広い旅館内をてくてくと歩いていくと、温泉棟は屋上屋を重ねるように上側に造られていた。斜面に建っている宿なので、建物的にはここは6階なのだが温泉部分は崖に接して地続きになっている。斜面の上側には樹木が密集していて天然の雪止めとなっているようだ。…なるほど、制限の多い立地でうまく作ったものだな。
内湯は総ガラス張りで眼下の繁華街からはまるみえらしい。・・・が、ここはスルーして露天に向かおう。温泉の好みは人それぞれだとは思うけれど、筆者は露天の趣が欲しい人種なので駅の近くの宿よりは山側の温泉を薦めたい。
そんなわけで一糸まとわぬふるちんで氷点下の回廊をいく。
ここが一番高い場所にある露天風呂らしい。 …が、湯船には誰もいない。
不思議なもので、チェックインしたときにはロビーには大量の宿泊客がいたのだけれど、何故か露天風呂には人気がないらしいのである。温泉宿に来て温泉に入らないなど筆者には理解に苦しむのだが、まさか部屋にあるユニットバスで入浴は済ませてメインディッシュはスキーです……なんて客層が多いのじゃあるまいな(笑)
それはともかく、湯船にゆったりと浸かって静かなる雪景色を堪能することにする。
露天風呂には余計な囲いはなく、周囲の景色がよくみえる造りになっていた。なるほど…当日思い立って何も考えずに出てきたけれど、案内所(※)で薦めてくれただけのことはあるな。
現代の越後湯沢は開発されまくってリゾートマンションが立ち並ぶ 「町」 の様相を見せているけれど、そもそもは狭い盆地の底の寒村が出発点であり、ちょこっと山側に寄ればまだこんな風景が残っている。こういう風情をゆっくり堪能できるなら、わざわざ来た甲斐もあろうというものだろう。 …というか、これを堪能しないなんて勿体なさ過ぎる。
※当日思い立って出てきた割にちゃんとした宿が予約できたのにはこの案内所の存在が大きい。何でもWEB予約で済ませている人にはピンと来ないかも知れないけれど、WEB予約は一見お得なように見えて実は選別ハードルが高めに設定されている。しかし当日客向けに実際にはいくらか部屋は空いており、旅館組合の案内所に問い合わせるとそのような部屋を斡旋してくれるのである。結局最後は直接電話で聞いてみるのが一番なのだ。
見下ろせば、眼下には温泉街の夜景が広がっている。雪と人工光というのは相性がよいらしく、これはこれでなかなか綺麗なのである。…そして明かりは見えるけれども、音らしい音は聞こえない。
この雪の消音効果というのは結構なもので、ときどき新幹線が通るゴォォ…という音がするのだけれどすぐに掻き消されてしまい、また沈黙の風景に戻る。ああ…これが、雪国の夜なんだなぁ…
さて天上の露天を愉しんだ後は、一階下側の風呂も味わってみる。斜面に沿った立地なので階下といってもあまりそのような印象は受けない。内風呂よりは、やはり露天の方が味がある。
雪の中には、なかば埋まって小さな道祖神が鎮座していた。温泉の熱で雪面が解けて氷柱(つらら)が垂れ下がり、ぎりぎりのところでバランスをとって露出しているような印象だった。これはこれでイイカンジだな。
ところでこんな野趣溢れる雪の温泉だけれども、実は冬季の営業が始まったのは割りと新しく、昭和に入って上越線が開通して以降のことだという。かつてはあまりにも雪が深いので冬季には客が来ず、初夏~秋の間だけの営業だったのである。
歴史的にみれば越後湯沢は温泉で栄えた集落というよりは越後と関東をむすぶ街道の宿場であり、その街道も信濃経由で東山道/中仙道に接続する北国街道のほうが物量的に大きな存在で、湯沢自身は脇街道の小宿という地位であった。冬季にはもちろん交通は止まってしまうので、外界からの来客はほとんど見込めない。
温泉が湧いていても川沿いの崖っぷちに雪道を掘って通う人がどれだけいたかというと…たしかに営業は厳しいだろうな。
そう考えると、こんな雪壁に囲まれながら味わう温泉というのは、非常なる贅沢と言わざるを得ない。正しく、存分に味わっておこう。
さて露天を堪能した後に内風呂にも入ってみたが・・・こちらの写真は湯気で超ソフトフォーカスになってしまった。
さて風呂上りに何か冷たいものでも…とロビーに下りてみた。 しかし売店は閉まっているしバーも開いてないし自販機も無い…ということで、妙なところで雪国感覚を味わうこととなった。
うーん、これは黙って寝ろということかな。 …まあ郷に入っては郷に従え…と。
■2日目
さて2日目がやってきた。…といっても、もう帰投フェーズに入らねばならないので、あまり冒険をしている余裕は無い。時計をみるとまだ6時…とりあえず、朝のうちはもう少し雪の風情を味わってゆっくりすることにしよう。
そんなわけで、また朝っぱらから風呂である(笑)
街にはまだ明かりは点いておらず、トワイライトのなかで静寂だけがひろがっている。そしてそんな風景を独占して、ふたたび露天風呂をゆっくりと味わってみた。
なにしろここでは他にやることがないのである。こういうときは思い切り順応してしまうに限る(^^;)
それにしても……やはりこういう何ものにも囚われない時間というのはいい。
温泉の効能というのは、医学的にはいろいろと説明がつくのだろうけれど、やはり脱・日常の気分というのが大きいような気がする。 いつも誰かの都合に合わせて拘束されている現代人には、こういう時間が必要なのだ。
そしてその日常から逃れるためには、適度に物理的な距離感がなければならない。
雪に囲まれた奥深い山岳地というのは、その点でも実に素晴らしい環境といえる。できれば携帯も圏外であって欲しいところだけれども、日本の通信会社は余計なところで過剰な品質を提供してくれたりするので、まあその辺は適度に 「うっかり」 する心掛けが…むにゃむにゃ
さてすっかり朝風呂でリフレッシュして部屋に戻り、朝食を摂りにレストランに下りると 「いったいアナタたちどこにいたんですか?」 とツッコミを入れたくなるくらいの宿泊客が列を成していた。やはりスキー客が多いらしく、温泉の風情よりはゲレンデ具合のほうに関心が行っているらしい。
さて非常に物足りない内容ではあるけれど、今回はここまでである。
またもや高速でびゅわーんと舞い戻り、灰色の生活が始まるわけだけれど…まあ、適度にリフレッシュしながらゆるゆるとやっていこう。
<完>