2013.01.14 木幡神社の太々神楽とどんど焼き(その3)
■ふたたび神楽殿へ
さてふたたび神楽殿に戻ると演目が変わって 「しこうの舞」 になっていた。どうやら鬼退治の話のようなのだが、途中から見たのでいまひとつストーリーはわからない。
せめて各演目のあらすじをまとめた小冊子でもあれば良いのだけれど、不思議なことに神社ではそういう資料を用意していない。これは非常に勿体ない気がする。
ところでよく見ていないとなかなか気が付かないけれども、神楽で描かれる習俗は記紀神話の成立した8世紀(奈良時代)当時のものである。小道具も面白く、ベニヤ板で作ったような剣はテキトーに作っているように見えて両刃の直刀で、奈良時代の様式を受け継いでいる(刃紋があるのは200年ばかり時代が錯誤しているけれども ^^;)。そんな訳で、こんなところにも歴史ありなのである。
■実況中継風(?)神楽解説 ~大蛇の舞~
さて写真だけでは神楽の実際の様子を伝えるのが少々難しいように思われるので、無茶は承知で実況中継風(なんだそりゃ ^^;)に一座分の進行状況を紹介してみよう。
題材は非常に分かりやすい素材として 「大蛇(おろち)の舞」 を取り上げたい。素戔嗚(スサノオ)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治する話で、普通の日本人なら誰でも筋書きくらいは知っているものだ。
神楽は基本的に三幕構成である。第一幕はヒロインである奇稲田姫(くしなだひめ)の舞となっている。囃子が鳴り出すとさっそく舞台の袖から奇稲田姫が登場する。
まずは観客に向かっての顔見せを行う。登場人物が男性の場合はここで大見得を切るのだが、今回はお姫様なので派手なモーションはない。
その後、静々と神前に向かい、手を合わせて一礼する。神楽は神様に向かって奉納するものなので、いちいち必ずこの所作が入る。
ここからが舞の本番になる。扇を二本、両手に持ってひらり、ひらりと姫の舞が始まる。
やがて翁が登場する。奇稲田姫の父である足名椎(あしなづち)神だ。8人の娘を次々と八岐大蛇の生贄として取られ、残るは末娘の奇稲田姫ただ一人…という状況にある悲劇の神様である。
ほとんどが無言で進行する太々神楽にあって、この場面は珍しくセリフがある。奇稲田姫が八岐大蛇に食われようとしている…と、状況の説明が行われるのである。翁の登場はほぼこのナレーション役のためだけで、その後はすぐに引っ込んでしまう。
さてここでいきなりオロチの登場キター!ヽ(・∀・)ノ
…ということで、第二幕=オロチの大暴れが始まる。
冬の屋外に全開放状態なので、大見得を切るたびに中の人の息が白く見えている。まるでゴジラの吐く放射能のようだが、これはこれで演出としてはイイカンジである。ヴィジュアル的にも面白く、能とちがって神楽にはこういうフルフェイスの被り物があるのがナカナカによろしい。
そのオロチは、まだスサノオが登場しないうちに、いきなり酒を飲んで寝てしまった。…あれ? そんな筋書きでいいんだっけ?(^^;)
…いやしかし、ここでスサノオが登場してスパっとやってしまえばほとんど不戦勝のようなもので、それはそれで戦略的勝利といえなくもない…かな?
しかしオロチはここで目を覚まして以前にも増してパワーアップし、暴れはじめてしまうのである。
うがー!
うががーっ!
…しかしこれだと、神話のストーリー=酒で眠らせている間に首を落とすという展開からは明らかに外れている。いったいどうなってしまうんだ。
ここでいよいよスサノオ、キターヽ(・∀・)ノ
…つーか、顔がでけー!(笑)
…それはともかく、ここからが三幕目で、激しいバトルが始まる。オロチが目を覚ましてしまった時点で神話で語られる作戦(?)は既に失敗しているような気がするのだが、正義のヒーローにとってはそんな些細なことは問題ではないらしい。
ここでスサノオは大見得を切って 「俺が正義だ」 というアピールをする。その間、背中からバッサリやってしまえばオロチの勝利が確定してしまう筈だが、そうはならないところに活劇シナリオの普遍的なお約束がある(いいのかそんな解説で ^^;)
対決のシーンはやはりいちいち見得を切って場面を盛り上げていく。ただし歌舞伎の見得とは雰囲気が違い、役者が個人的に目立つのではなく場面全体の意味を説明するような感じだ。
そしていよいよ戦いとなる。舞台装置の派手な石見神楽などではオロチは蛇胴(アコーディオン状のジャバラ)を使って表現される場面だが、木幡神社ではあくまでも舞踊として表現されており、擬人化して "斬り結ぶ" という演出になっている。
そんなわけで 「どうして大蛇なのに手が2本あって剣をふりまわすのさ」 などとツッコミを入れてはいけないらしい(^^;)
ちなみにオロチと戦っているときのスサノオはまだ神剣=天叢雲剣(草薙剣)は持っておらず、一般的な量産型の鋳物の剣で戦っている。後に三種神器に数えられることになる神剣は八岐大蛇を退治したときにその体内から出現した…と神話では語られており、内在するパワーでいえばこの場面ではオロチ側のほうが圧倒的に有利である。
さてヒーローはすんなりと勝たせてはもらえない。次第に押されて形勢が不利になっていく。
ついに膝を屈して危機に陥るスサノオと、勝ち誇るオロチ。プロレスならここで 「スサノオ! スサノオ!」 とコールがかかって興奮が最高潮に達する場面だ。熱血バトル漫画なら主人公の修行時代の回想シーンなどが入って 「負けられねぇ!うおおおお!」 と気合が入るところだろう。
…で、なんと250年前の神楽の台本でも展開が同じなのであるヽ(・∀・)ノ
特殊なサプリメントを飲んだわけでも秘められた特殊能力が開花した訳でもなさそうだが、スサノオは気合だけで立ち上がり、オロチに挑んでいく。
そしてついに、オロチは崩れ落ちる。…が、ここで簡単に許さないところがスサノオなのである。まだまだ、どんどん追い詰めていく。
そしてついに、まさかの場外乱闘キター!ヽ(・∀・)ノ
…これは正直、驚いた(^^;) なんという超展開w
しかしあれだけ暴れまわっていたオロチも、ついに 「話し合おう」 モードになって退場していく。神前で奉納するものなので殺生の表現は無いらしく、ここで勝敗が確定する。
そして奇稲田姫を救い出したスサノオは、有名なあの歌を詠むのである。ここでも神楽にしては珍しくセリフがある。
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに
八重垣作る その八重垣を
奇稲田姫はここで救出されたことを示して退場し…
スサノオは勝利の大見得を切る。…なんとなく中指を立てて FUCK OROCHI を叫んでいるような気がするのは…たぶん気のせいだろう。(補足:これも所定の動きなのであって特にウケを狙っている訳ではない)
そして神様に一礼し、スサノオも退場していく。
…とまあ、ここでは面白おかしくまとめてはみたけれども、神楽というは決して難解なものではなく、神話劇をわかりやすく舞踊化したものだということがお分かりいただけると思う。派手なアクションのある歌舞伎とは違って、こちらはあくまでも静かに、かつ象徴的に場面を表現していく。筆者も、神前奉納というのはこういうものなんだな…と、不思議な感慨をもった。
さてここで小休止があり、副餅が撒かれた。
見れば分かるように、屋外ではずっと雪が降り続いていている。演じる人も演奏の人も、こんな環境で何時間も神楽を奉納しているのだから大変だ。
…で、どんど焼きはというと…まだまだ続いている。本当にロングランなんだなぁ。
<つづく>