2024.01.20 松島湾と瑞巌寺(その2)




■ カモメと島々




ところでクルーズ船からみる風景に何かが足りない。

何かというと、カモメの姿がほとんど無いのである。よく見れば島々の上にちょこんと留まっていたりするのだが、絶対数はあきらかに少ない。




参考までに、2006年に来た時の写真を載せてみよう。 当時はこんな具合に大量のカモメが飛んでいて、観光名物のひとつになっていた。

それが今やまさかの閑古鳥。いったいこれはどうしたことなのだろう。




調べてみると、どうやらこれは観光協会の方針で "餌付けの禁止" が打ち出された結果であるらしい。 カモメは頭のいい鳥なので、船に伴走しても餌をもらえないことを学習すると寄ってこなくなった訳だ。




禁止になった背景としては、フランスに本部を置く "世界で最も美しい湾クラブ" (World's Most Beautiful Bays Club) なるユネスコ系NGOに、松島が日本で初めて登録されたという事情があるらしい。




同NGOのウェブサイトをみると、確かに松島湾が登録されている。観光振興の面からも震災復興の面からも、国際機関の関連団体からこういうお墨付きがつくのは良いことのように思える。

ただ本部がおフランスといこともあってか、このNGOの認定基準には "美しくないものはダメ" という謎の主観があり、カモメはどうやらその美の基準には反するらしい。




曰はく、カモメがいるとフン害で松が枯れるから…というのがその理由らしいのだが、筆者的には 「なにそれ?」 という感がつよい。鳥のフンはたとえば鶏糞が農業用の肥料に使われるように、土壌を肥やす働きがある。岩肌基調の湾内の島々はそもそも植物の育つ土壌に乏しい訳で、それを肥やすカモメを排除してどうするのだろう。

まあ筆者は一介の旅人であって、現地で必要と判断している事項についてとやかく言う立場にはない。 ただ一観光客として 「…カモメが見られなくて残念だなぁ~」 という感想は残しておこうと思う。 そのくらいの自由はあってもいいよねぇ(笑)




■ 野々島




さて船は湾の入り口からUターンしてクルーズの後半戦に入った。復路は湾内の有人島の隙間を縫っていく航路となっていて、島の地質をよく観察できる。 見れば凝灰岩とシルトの積層具合が面白い。

凝灰岩は火山灰が堆積してできたもので、その由来は蔵王山などの那須火山帯の山々の噴火活動によるものといわれる。筆者の居住する那須連山の裾野平野にも多く見られ、岩石としては柔らかい部類なので簡単な工具があれば手掘りでトンネルを穿つこともできる。 松島湾では自然の波の浸食力で隆起部分が削られ、多数の島々が誕生する素地ともなった。

わざわざそんなことに触れるのは、この後に訪れる予定の瑞巌寺の風景に関わるのでちょこっと覚えておきたいからだ。この地層は陸上にも続いていて、やはり穴を掘る連中がいる。波が掘っても人が掘っても、そこには面白い風景が現出するのだ。




やがて水面すれすれの位置に建っている建物が見えてきた。ここは野々島という有人島で、松島湾の島々では唯一の小中学校がある。みな周辺の島々からフェリーで通学するという映画かドラマに出てきそうなところだ。




この野々島の属するのは浦戸諸島という島々で、行政区域としては塩釜市に属する。もともとは浦戸村という独立した自治体であったが戦後の市町村整理統合の中で昭和25年に塩釜市に編入された。浦戸村にとっては経済規模の大きい塩釜市の一部になることで行政サービスの質が向上し、塩釜市としては松島湾の入口を広く市域に含めることで湾内行政(航路や漁業など)の主導権を握るというメリットがあったらしい。

ただ生活圏としては浦戸諸島から塩釜港までは距離があり、学校の区割りは旧浦戸村の範囲がひとつの塊として存続した。野々島はちょうど諸島の中心に位置していて、諸島内唯一の学校はここに置かれた。




筆者は当初、あのいかにも校舎のように見える建物が学校かと思っていたのだが、あれは塩釜市の施設で学校はもう少し奥の高台にあるという。ちなみに施設(浦戸諸島開発総合センターというらしい)の標高は海抜1.5mで、津波が来たら一発アウトな立地にある。

余談になるが震災の起こる前には小学校と中学校が別にあり、沿革をみると震災の6年前に小学校が現在の中学校のある高台に移転して併設状態になったとある。そうするとフェリー乗り場の真正面(=アクセスに一番便利な場所)にあるあの建物がかつての小学校だったのかもしれない。 時間があれば立ち寄ってみたいところだな。




さて気が付けば、いつのまにか光線具合が写真撮影に適したいい感じになってきた。ある程度の太陽の高さと、朝靄(もや)が抜ける程度の気温上昇があるとすっきりした空気感が得られるらしい。

これだと朝一番の便(=いま乗っている)は見送って次の便にしたほうがよかったのかもしれない(笑) いやまあ、いいんだけどね。




などと思っているうちに船着き場に戻ってきた。次の便の乗客が列をつくっているのが見える。今から出る人は、きっと光線の神様に祝福されるだろう。願わくば、善男善女の諸氏にすばらしきクルーズを。




■五大堂へ




そんな訳で接岸。船を降りてみると人の列がどんどんやって来ていた。乗船券売り場の休憩室にいた人々がゾロゾロと出てきたようで、オフシーズンでもそれなりに人は集まるらしい。 これなら観光船も赤字にはなるまい。




さて陸に上がったら有名な五大堂でも見てみようと思ったのだが・・・・




残念ながら工事中で橋を渡ることが出来なかった。警備員氏曰はく 「そりゃまあ工事をするならオフシーズンですので!」 とのことで、これまた 「そりゃそうだよねぇ」 と返すしかない。




さてそうなると、横道に逸れるのはやめて当初の予定通り松島随一の古刹、瑞巌寺に入るのが良さそうだな。

<つづく>