2024.02.23 窮乏のサンフランシスコ路(前編その7)




■サンフランシスコ湾クルーズへ




さてフェリー乗り場にやってきた。可能ならいくらか港町の探訪をしたかったのだが、チケットデスクのおっさんが 「次の便が間もなく出るよ」 というので遠出は諦めることにした。 フェリーの運行間隔は1時間半に一本くらいで、これを逃すと時間のロスが少々痛い。




ここのフェリーはクルマは搭載せず、人間と自転車専用になっている。桟橋は人の列の先頭あたりで枝がぴょこんと伸びていて、フェリーはその先に停泊している。それにしてもすごい人数だな。




列を待つ間、しばし周囲の景色を堪能してみた。サンフランシスコ湾は東京湾とほぼ同じくらいの領域をもち、ここから市街中心部を見ると約8kmくらいの距離になる。参考までに東京湾でアクアラインの洋上SA "うみほたる" から川崎側を見ると9kmくらいなので、東京圏在住の方には距離感の目安になると思う。

ただ東京~川崎あたりがほぼ平坦な地形なのに対し、サンフランシスコ市街地は中心部(市庁舎)から半径3m圏内の高低差が180mほどにもなる丘陵の連続体だ。そこに高層ビルが林立しているので都市のボリューム感はこちらのほうが大きく見える。




やがて乗船の時刻となりゾロゾロと搭乗がはじまった。

日本の親切な交通機関と違っていちいちアナウンスはなく、登場開始の合図は係員が黙ってゲートを開けるだけだ。「本日はご乗船いただき誠にありがとうございます~♪」 …なんてセリフはアメリカ人に期待してはいけない。




自転車は無造作に詰め詰めで載せていく。係員は一切手伝ってくれない。 自分の車両は自分でロックし、どこに停めたかをきちんと覚えておこう。



 

■さらばサウサリート




さて出航は、これまた何のアナウンスもなくエンジン音がゴォォン……と高まったと思ったら離岸していた。なんという漢の仕様。 というかこの国のブルーカラーの特色でもあるけれど 「言われたことはする、それ以上は知らん」 というのが徹底しているな。




護岸には海を眺める人々がいい感じで並んでいた。朝一番の徒歩でトホホな展開がなければ、もう少し早めに到着してカフェで休憩する時間がとれたかもしれないが、まあそこはそれ。知らないところを征く旅なのだから、毎度100点満点という訳にも行くまい。




海から見るサウサリートは本当に高級リゾート地という感じで、裕福な街であることが見て取れる。この街並みを見たとき、筆者は当初宿泊業者のペンションが並んでいるのかと思った。しかし調べてみると宿泊施設は港に隣接してホテルが3軒があるのみで、商店も港に隣接するブリッジウェイに添って少数が点在するにすぎない。 斜面にある建物の大半は、みな一般住宅なのである。

ここでは海岸から1km少々でハイウェイ101号線に乗ることが出来、リッチモンド、サンフランシスコ、また少々遠くなるがシリコンバレー方面に通じている。今回筆者は意図的に旧砲台のあった古い地区を走って来たけれど、背後の丘陵地の向こうには超便利な交通インフラがあって、富裕層が生活するには申し分のない環境が整っている。




街の雰囲気というのは本当に場所によって大きく変わる。裕福そうなエリアと貧乏そうなエリアには歴然とした差があるし、歩いている人の雰囲気もまったく違う。格差とか階級化というのを、否が応でも認識せざるを得ない。 それが果たして良いことなのか、悪いことなのか、筆者にはよくわからないけれども。




そんなことを思いながら、小さくなっていくサウサリートの街並みを眺めてみた。
……まあ、答えなんて無いのだけれどね。




■洋上風景を眺める




さてエンジェルアイランドをかすめて海峡の真ん中あたりまで来るとゴールデンゲート・ブリッジが見え始める。実はこの橋はイェーツ砲台のある岬の陰になってしまうのでサウサリートからは見えず、沖合3kmくらいまで進んでようやく視界に入る。ただ午後になると逆光になって特徴的な赤い色は見えなくなってしまう。




失敗しない写真を撮るならやはり巡光条件で、この時間帯ならエンジェル島などが日当たりがよい。ただこの島はたびたび起きる移民排斥運動で収容所が置かれていた事情もあり、旅行者に紹介されることはほとんどない。




そんなわけで、筆者はしばし遠方のヨット群を眺めながらクルーズを愉しむことにした。




他の客はというと、もう落ち着いてしまってただ座っているだけという印象であった。 見れば日本人らしい客は筆者くらいで、他は欧米系の人ばかり。アジア系の人間はそもそもほとんど居ない。




こういうところにも、見えない人種の壁、階級の壁というのがあるのだろうか。

日本人が少ないのは 「ひどい円安で旅行を控えている」 という理屈が通りそうだけど、その他の国々まで含めて東洋系がまるっと居ないというのは不思議な気がする。



 

■アルカトラズ島




さて航路の中間点を過ぎると、サンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジを背景に、アルカトラズ島が見えてくる。

まず最初に橋の説明をすると、あれはゴールデンゲート・ブリッジとほぼ同時期に着工されたニューディール政策の成果のひとつだ。日本の瀬戸大橋が開通するまでは世界で一番長い吊り橋でもあった。橋には車道が10車線もあり、幅の広さでは現在も世界一を誇っている。

そして手前の島が "監獄島" として有名なアルカトラズ島だ。元は軍の要塞として使われており、南北戦争後に監獄として転用された。当初は脱走兵の収監先であったようで、のちに司法省に移管されて凶悪犯の収監施設となった。有名なギャングのアル・カポネもここに収監されている。刑務所としての運用は1963年で終了しており、現在は観光の対象となっている。ただし上陸人数には制限があり、誰でも渡れるというものではないらしい。




フェリーの航路はこのアルカトラズの近傍300mくらいを通過していく。おかげでこの島はフェリー観光の目玉のような位置づけになっていて、筆者も 「どれどれ」 とばかりにカメラを構えていたわけだ。

島は周囲を切り立った崖で囲まれており、砂浜はない。島の中央にあるのが刑務所の収容施設跡で、1963年まで現役だったため保存状態はよい。その他の古い施設は火災にあったり経年崩壊したものがみえる。




観光ツアーで渡る際には、北側のフェリーターミナルから上陸するそうだが、今回のサウサリート⇒フィッシャーマンズワーフ航路からはターミナルの状況は見えない。




崖の高さは15mくらいだろうか。脱獄を謀った囚人は記録では36名ほどいるが、そのうち23名は連れ戻され、6人が射殺、2人が溺死となっている。あれ?36-23-6-2=5なんだけどこの5人はどうなった?

……と思いきや、この5人は行方不明だが溺死したものと推測されている。 映画 「アルカトラズからの脱出」 で描かれたのはこの行方不明者のうちフランク・モーリスという男の話で、映画では脱獄に成功したことになっている。その脱出場所は上の写真の左端部奥で、ここから手製の筏(いかだ)で海に出たらしい。FBIはこの男の行方を17年間追いつづけ、1979年に溺死したと断定して捜査を打ち切っている。



島の東側には廃墟化した灯台がみえる。廃墟化したのは火災によるものらしい。よくみるとツアーで上陸した人の姿が見える。 日本にも廃墟ツアー好きは多いけれども、ここにも同類はいるらしいな。




島内の建物は結構倒壊しているものが多いようだ。さすがにここまで派手に崩れていると史跡としての価値は微妙な気がするが、瓦礫マニア(なんだそれは)の人にはたまらないシチュエーションかもしれない。



 

■イェルバブエナ島~着岸まで




さてアルカトラズ島を過ぎると、イェルバブエナ島がみえてくる。さきに紹介したサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジの中継地になっている島だ。ちょっと遠すぎるので解説は省略して、明日改めて書いてみようと思う。




さて時計をみるともう午後3地に近い。 この頃になるとヨットも港に引き返し始めて洋上に出ている船数は減ってくる。サンフランシスコ湾内のヨットのツアーは午前+午後の2回、1コース当たり90分~2時間くらいが相場らしい。もっと遅くまで粘るのかと思いきや、案外早く上がってしまうのだな。




そろそろゴールが近く、埠頭の設備がみえてくる。大きな観覧車がみえるのはフィッシャーマンズ・ワーフに付随した遊園地のようなものらしい。




だんだん日が傾いてくる中、そろそろ最終便かもしれないクルーズ船とすれ違う。すぐ近くを水上バイクがかっ飛ばしていく。 この距離感で安全上大丈夫なのか心配になるけれど、だれも気にしていないところをみると許容範囲内なのだろう。




その水上バイクのを避けるように、何かがちょこまかと動いていた。よくみるとアシカだ。以前来た時には湾内に大量にいたのだが、そういえば今回はほとんど見かけていない。まあ自然界の生き物だし、遭遇しただけでも良しとしようか。



 

■ 着岸




そんな訳で、いろいろ眺めながらもサンフランシスコ港に戻ってきた。ここはフィッシャーマンズワーフのピア41=フェリーターミナルだ。画面右側がピア43、左側がピア39で、どれがどれだかわからん、という方は 「とにかく埠頭がいっぱいあるんだよ!」 とだけ覚えておけば差し支えない(何)。




接岸すると徒歩客、次いでチャリ客の順で船を降りる。ここでも 「ご利用ありがとうございました」 なんて殊勝なアナウンスはなく、皆黙々と降りていくのみだ。 筆者もチャリを押しながら下船した。




もうすっかり西日だが、せっかくなのでピア39に寄っていこう。この付近は観光用に特化したショップ街になっている。ここを外してしまうと 「何しに行ってきたの」 と言われてしまうくらいにはメジャーなので、チェックはしておこう。


<つづく>